10月28日(土)、成城大学で開催される日本マス・コミュニケーション学会2017年度秋季研究発表会にて、ネットワーク社会研究部会のワークショップ「ネットワーク社会の地層史」に登壇します。
問題提起者:辻 泉(中央大学)+ 土橋臣吾(法政大学)
討 論 者:飯田 豊(立命館大学)
司 会 者:伊藤昌亮(成蹊大学)
「ネットワーク社会」という言葉はこれまで、情報通信技術が普及した未来社会を展望するさい、頻繁に用いられてきた。しかしながら、すでに世界中にスマートフォンとソー シャルメディアが普及し、インターネットが社会基盤となった現代においては、この言葉の意味を批判的に再検討していくことが必要になってきている。
このワークショップでは、「ネットワーク社会」を歴史的に捉える視座を提起し、その射程について議論をしていく。かつて佐藤健二は「メディアの地層学」「コミュニケーションの社会的地層」という隠喩を用い、モノを手掛かりとしたメディア史という領域を指し示した。これにならい「ネットワーク社会の地層史」という観点のもと、おもに日本における鉄道、電信電話、自動車、テレビ、そしてインターネットなどのネットワークをめぐる技術革新に、ナショナリズムやリージョナリズムなどが複合的に作用した歴史に焦点をあてる。
『鉄道旅行の歴史』(1977年)を著したヴォルフガング・シヴェルブシュが指摘したように、鉄道を生物体に喩えると電信は神経系統であり、車窓に沿って飛び去っていく電柱と電線の背後に、19 世紀の鉄道旅行者は風景を見た。また、マーシャル・マクルーハンやレイモンド・ウィリアムズなど、自動車とテレビの相互関係に着目していた研究者も少なくないように、〈交通(transport / traffic)〉と〈通信(communication)〉のネットワークは互いに分かちがたく結び付いている。
そこで具体的には、あくまで便宜的かつ操作的な区分ではあるが、〈鉄道交通〉や〈マスメディア〉がつくるネットワークの地層について辻泉が、〈自動車交通〉や〈デジタルメディア〉がつくるネットワークの地層について土橋臣吾が、それぞれの特性を対比させながら一体的に問題提起をおこなう。
辻については、これまで、〈鉄道交通〉や〈マスメディア〉が作り出す「ネットワーク社会」に関連して、いくつかの業績を積み重ねてきた。問題提起においては、19 世紀から20 世紀にかけての、ナショナリズム、帝国主義などと関連したその様相を展望することとなろう。
土橋については、これまで〈デジタルメディア〉を中心に、「移動の社会学(J・アーリ)」 に関連して、いくつかの業績を積み重ねてきた。20 世紀から 21 世紀にかけての、グローバリゼーションなどと関連したその様相を、辻の問題提起に続いて展望することとなろう が、その両者については、違いや断絶を強調するだけでなく、むしろ連続する面もあることなどを多層的に検討していきたい。
最後に、討論者はメディアの技術史などに取り組む飯田豊が務める。飯田は、こうしたもろもろのメディアについて、歴史的な観点から業績を積み重ねてきており、俯瞰した視点から討論を活発化していくうえで、最適の人選と言える。
以上のように、これらのネットワークが重層的に編み上がっていることを示したうえで、 各参加者の問題関心を踏まえながら、現代社会の様相を浮かび上がらせることを目指したい。